池田 健太郎

「インターンを振り返って」


本年度(2007年)1月よりインターン業務をさせていただき早6ヶ月、たくさんのことを経験し、学び、また考えさせてもらった。この6ヶ月は、途上国における教育開発に関して何一つの知識・経験を持たないにもかかわらず、関連分野での留学、就職を志していた自分にとって、かけがえのない貴重な経験となった。
私は半年間の中で、最初の約2ヶ月間の、主に事務所内の各事務作業、会計処理、税金処理等を担当する総務業務の補佐を担当し、残りの4ヶ月は、主に事業地で実施された保健トレーニングの調整業務の補佐を担当した。これらの仕事は、これまで社会経験がなく世間知らずの自分にとって時にめまぐるしくまたつらいこともあり、スタッフの方々に多大な迷惑をかけてしまったと思う。しかし、これらはまた自分にとって新鮮でもあり、貴重な経験を積む機会にもなった。半年間で、数え切れないほど多くのことを学んだが、それらは途上国の教育開発における考え方・業務経験はもちろんのこと、仕事に取り組む姿勢・態度など、社会人として基本的なことも数多く勉強させていただいた。

まず仕事への取り組みであるが、保健事業においては、現場業務だけでなく、トレーニング招待状、出席表の作成や、他の事務作業など、多くの単純作業をこなさなければならない。初めのうちはこれらを雑用処理と考え、それほど気持ちを入れずに作業していたが、事業が進むにつれ、これらの作業一つ一つの持つ意味を考えるようになった。例えば、トレーニングの招待状の作成は、自分にとっては決まったフォーマットに参加者名簿と日にち、時間帯を打ち込むだけの単純作業かもしれないが、地域の人々とっては、保健トレーニングは、自分や家庭、また自分の地域の生活スタイルを向上させる大切な機会となるかもしれない。したがって、トレーニングへの案内、日時等を記した招待状は参加者にとって、また地域にとってとても重要な書面となるので、名簿を間違えて入力したり、謝った日時を記載したりしてはならない。それらは結果的に、事業の進捗や達成、地域との信頼関係などに影響すると思われる。単純作業と思われる仕事でも、それらの持つ意味を一つ 一つ考え、責任を持って真剣かつ慎重に取り組む姿勢を学ぶことができた。
仕事に対する責任もまた、インターン期間で学んだ大きな収穫であった。私が現場で保健事業を担当したとき、最初のうちはトレーニングの準備、後かたづけ、報告作業やその他の事務処理ばかり集中し、トレーニング内容や参加者の目標達成度の吟味、今後の課題や目標設定など、プロジェクト実施における本質的な事柄に対してほとんど関心を持たなかった。いわゆる、仕事に対する責任感が欠けていたのである。やがて、トレーニングの調整業務もある程度任されるようになり、一連のプロジェクト遂行における責任感も徐々に持ち始めた。しかし、すべての仕事を一手に引き受け、自分だけでこなそうと考えたため、自分だけでは手に負えず、たくさんの仕事を抱え込み、そのために事業は進展せず、スタッフの方々に多大な迷惑をかけてしまう結果となった。開発分野での仕事における責任をもつこととは、ただ自分で仕事をこなすだけでなく、周りのスタッフと協力して互いに助け合いながら事業を調整していくことではないかと考える。自分だけで仕事を抱え込まず、スタッフと事業の進捗を確認、改善点などを頻繁に話し合いながら、時に仕事をお願いし、また時に仕事を抱えたスタッフを手伝う等、仲間との協調性における責任の重要性に気づいてから、仕事がうまく回るようになったと思う。スタッフと協力し、互いに事業に対して責任感を持つことで、事務処理や雑用だけでなくトレーニングの調整にも少しずつ頭が回るようになり、何とか最後まで事業をやり抜くことができたのではないだろうか。
 
途上国における教育開発のあり方について、約4ヶ月間に渡り、基礎保健トレーニングや地域エイズ学習会等の保健事業に一貫して関わらせていただいた中で、地域の人々が主体となり、自分たちの地域に根付いた問題に気づき、話し合い、そして立ち向かっていく姿に出会うことができた。地域のお母さん方を対象とした基礎保健トレーニングは、単に知識の提供に止まらず、参加者を主体としたグループによる地域内での保健活動の促進、継続について自分たちで話し合う機会を提供する。またエイズに関しては、トレーニングの中で参加者が地域で起こりうるエイズ問題に向き合いさらに深く話し合うことを促進していく。これが次の段階である、トレーニングの参加者が親しい男性と地域住民を巻き込みエイズ問題について一緒に考え話し合うエイズ学習会へと発展する。学習会は、各地区のトレーニングの参加者が中心となり親しい住民とともに自発的に開催を申請し、それに応じて当会は専門家とともに合意された日時に合わせて現地に出向きファシリテーションを行うといった形式で実施される。
ある地区では、以前実施された保健トレーニングにおいて、夕食と滞在費用の提供を条件にトレーニング参加を主張するといった挑戦を参加者から受け、責任者が本部から出向き説得する事態にまで発展した。この過去の経緯から、今回自分が関わった2度のトレーニングではその開催への影響が心配されたが、参加者は2度とも真剣で熱心であったのに加え、内容のある発展的な話し合いが参加者間でなされ、さらに当会に対して感謝の意を表するなど、参加態度や取り組み方が段階を経るにしたがって大きく変化した印象を受けた。また別の地区においては、基礎保健トレーニングの段階では、参加者の態度、取り組み方や発言内容から伝統や慣例を重んじ、新しい知識をなかなか受け入れがたい傾向があると分析されてきた。しかしエイズ学習会では、これまで慣例や伝統から巻き込みが非常に難しいとされた地域の男性が積極的に参加しただけでなく、参加者はこれまでとは違うまったく新しい形での地域の問題への取り組みを歓迎した。
上記の例のように、このタイプの取り組みは時間がかかり、地区によって参加意欲、積極性に差があり、最初はなかなかこちら側の理念や方針が理解されにくい場合もあり、さらに教育開発の特色上、非常に成果が見えにくい。しかし、支援側が少しずつ段階的に、慎重に丁寧に事業を進めていくことにより、参加者に少しずつ考え方の違いが見え始める。最終的に、地域の人々が自分たちの地域の問題について自分たちで認識し、他の住民も巻き込んで問題に向き合うようになる。まだまだ途上段階であり、これからさらに地域のリーダー、学校、行政との連携等への発展が見込まれるが、これらの活動を通して、地域住民の考え方や取り組み方が大きく変化したことに自分は本当に感動した。特に、保健トレーニングの参加者が自分たちの地域に戻り、学習会で他の住民を先導してエイズの問題について考え話し合っている姿はとても印象的だった。さらに、地域内における細かい違いや人間関係を熟知し、支援側の理論、方法論を一方的に押し付けることをせず、地域の状況に合わせて丁寧に段階的に事業を進めていくスタッフや専門家の方々には頭が下がる思いであり、多くのことを勉強させていただいた。

また業務に携わる過程で、NGO団体における、また教育開発事業におけるさまざまな困難性についても多く学ぶことができた。例えば、NGO団体における問題として、スタッフ間(例えば、日本人−ケニア人、スタッフ同士、スタッフ−インターン)での意見や考え方の食い違い、多忙によるコミュニケーション不足、一定期間内に何らかの成果を示さなければならないドナーとの関係や支払いに関するトラブルなど。教育開発の困難としては、上記にもあるように、時間を擁し、成果が見えにくく、調整は時にさまざまな点で複雑で、さらに支援側の意図が受益者側に受け入れられるとは限らない点などが挙げられる。また開発事業、特に教育開発は、趣向を凝らしても結局は支援者側の一方的な押し付けになってしまう危険性を常にはらみ、それと隣りあわせではないかとも考えられる。しかしこれらの問題は、多くの団体そして教育開発事業そのものが抱える根本的な問題でもあり、協力して一つ一つ正面から向き合っていかなければならない問題であろう。

総じて、教育開発において、地域の現状、人間関係や文化的背景等を尊重し、地域主体の観点から、互いに協力信頼しあって事業を一つ一つ丁寧に進めていくことの重要性は、仕事に取り組む態度、姿勢と合わせ、自分が今回のインターン経験を通して学んだ成果だったと思う。最後に、現場における調整業務は奥が深く、自分のような無経験者がわずか半年間で達成できるような仕事ではない。しかし、この分野に関して未熟な私を現場へ送り、様々なことを学びそして考える貴重な機会を提供してくださったCanDoの理事・スタッフの皆様に感謝したい。