マタトゥ(乗合自動車)改革 (2004年5月・会報第27号より)

ケニアで活動する中で、生命にかかわる最も大きな危険は交通事故だろう、と半ば確信しています。ナイロビの街中で、地方への移動中に、しばしば交通事故の現場に遭遇します。犠牲者を目の当たりにすることも珍しくありません。

中でも、定員15人のワゴン車に20人以上詰め込んで時速120km以上で走行する乗合自動車「マタトゥ」は、スピードが出しやすい郊外の幹線道路では特に危険な存在です。大型バスに乗っているときに、後方から近づいてきたマタトゥがコントロールを失ってバスの側面に接触し、扉が紙を丸めるように潰れていった光景を鮮明に覚えています。ナイロビの街中の交通渋滞でも、あきれるほどの乱暴運転です。急に反対車線に飛び出したり、歩道に飛び込んだり、また、ひとりでも多く客を確保するために、マタトゥ同士で追い越し競争をくりひろげたりしています。ケニアの国民性を「ポレポレ(ゆっくりゆっくり)」と表現しますが、マタトゥの運転手や車掌には全くあてはまりません。

このワゴン車タイプは、周辺国ウガンダ、タンザニア、エチオピアでも同じように乗合自動車として利用されています。しかし、定員数は守られ、ずっとゆったりと無理をせずに運行されているように見受けられます。どうして、ケニアばかり危険な状態にあるのか、不思議でした。

新政権はこの交通改革に乗り出し、2004年2月に新しい規則を施行しました。運転手と車掌の資格審査が厳しくなり、車両も時速80km以上のスピードがでないように自動速度制御器を設置、全席にシートベルトを装着が義務づけられ、定員以上に乗客を詰め込むことは禁止となりました。

しかし、延期や中止を期待してか、直前までポレポレとほとんど準備をしていない状態でした。そのため、2月に入って政府が厳格に規則を実施し始めると、マタトゥばかりでなくバスもほとんど運行できない状況に陥りました。その後、1か月ほどかけて条件を満たしたマタトゥやバスが順次路上に戻り、これまでに比べると随分安全に運転するようになりました。一方、営業を再開したマタトゥやバスが本来より高額な運賃を請求したため、多くの住民が徒歩で通勤するようになりました。マタトゥが庶民の足から「上流庶民」のものとなって、乗れない膨大な層ができたのではないかと心配です。安全で、みんなが利用できる公共交通機関が確立することを願ってやみません。


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