2010年 

7月 
[第51号] 8月4日、新憲法制定の賛否を問う国民投票実施

代表理事 永岡宏昌

 201084日に、ケニアの新憲法制定の賛否を問う国民投票が実施されます。ケニアの憲法は、多くの改正が繰り返されているとはいえ、独立前の1962年にイギリスで作られたもので、国民による新たな憲法の制定が長らく望まれてきました。

2005年にも、新憲法制定の国民投票が行なわれました。この時は、国民代表が議論を積み重ねた新憲法案が、司法長官によってキバキ大統領2002年就任)に有利なものに変えられたため、オディンガ氏(現首相)など有力政治家が反対。選挙管理委員会が反対シンボルに指定したオレンジにちなんで、反対派はオレンジ民主運動を形成して、活動を展開。国民投票での否決という結果になりました。

その勢いにのってオディンガ氏の政権獲得にむけた政治活動が活発となり、両者が拮抗したことが、2007年末の大統領選挙後騒動につながります。20082月末、アナン元国連事務総長らの仲介で、両者が連立政権を組むことで和平に合意した際は、「国民合意と和解法」が憲法で言及されるために、憲法改正を行なうことも書かれています。

今回の国民投票では、キバキ大統領、オディンガ首相ともに、賛成運動を主導しています。しかし、この新憲法案では、一定の要件のもとの妊娠中絶と、イスラム民事法廷の設置を認めていることについて、キリスト教会指導者が反対しています。国民の80%程度がキリスト教徒のため、新憲法が国民の承認をえることができるか、不透明な状態となっています。当会の事業地ムインギでも、いつもは現職の国会議員を支持する住民の多くも、今回はその新憲法へ賛成意見に沿わず、反対投票をするのではないか、との見方もあります。そして、2つの意見の数が拮抗すれば、新憲法の賛否というより、2012年の大統領選挙に向けた勢いづくりにつながる心配もあります。

このような状況の中、613日に、ナイロビ市内の政治集会の中心地であるウフル公園で爆破事件が起こりました。キリスト教団体が開催していた新憲法反対集会で、手榴弾が爆発し、6名の死者と100名以上の負傷者がでる惨事となりました。今のところ、この事件の実行者・原因・動機を推定したり、特定したりする情報は聞き及んでいませんが、これまでにない新たな形での暴力の発現といえます。

この国民投票が、宗教や民族対立の過激化を招かないことを心から願っています。

3月 
[第50号] 2009年のケニア概況

         騒動で露呈した課題の取り組み、そして行政機構の細分化

2009年のケニアは、2007年の選挙後に起こった騒動によって露呈した課題に、ゆっくりですが、取り組んできたように思います。

 警察官によるさまざまな違法な殺害が行なわれた事実(会報47号参照)を、6月にジュネーブの国連人権委員会でケニア代表が認めました。9月には責任者として批判されていた警察長官の人事異動が行なわれました。

一方で、選挙後騒動を計画・扇動した主要人物について、国内に特別法廷を設置して裁くことを模索していましたが、国会議員の反対により実現できませんでした。自立的な解決ではなく、国際刑事裁判所にゆだねられたことは、最善とはいえませんが、ケニアの司法自体への不信から反対した議員もいるので、一つの選択といえるでしょう。

また、騒動の背景になった土地問題について、独立後の政治エリートたちが、広大な土地を取得した状況が、11月に具体的な事例として報道されました。本人だけでなく、その家族の名義、会社組織などを通して、白人農園主から取得していたとのことです。

汚職の問題は絶えません。12月には、小学校への無償教育資金について、教育省本省の役人が関与した事件が明らかになりました。架空の研修、領収書の改ざん、小学校との不自然な送金などが確認され、そのために主要ドナーからの教育分野への援助が停止していました。

行政機構の細分化が進みました。3月までの3月のうちに全国で30県が新設されて209県に、11月にはさらに増えて、255県になりました。

当会の事業地でも、「ムインギ県」が今では6県に分割されています(会報49号で報告したように、ヌー郡、ムイ郡、グニ郡はムインギ東県となりました)。それにともなって、区と準区の新設が進み、区長や助役の公募と選任が行なわれています。これにより県の役割が変わってきたようです。

旧ムインギ県では、県知事が主宰する県開発委員会が、2つの国会議員選挙区を包括していましたが、現在では、国会議員選挙区に開発基金が委託され、それぞれ3県の開発を担っています。すなわち、地域の開発に関する権限が、県知事から国会議員へ移行しているようにみえます。一方、現在進められている新憲法案の策定作業では、政治・行政機構の大幅な制度改革が提示されており、今後の予想がつかない状態です。