2000年
[第13号] 動機付けを内在化する
代表理事  永岡 宏昌

当会は、ヌー郡・ムイ郡において、住民参加による地域の総合開発に協力するため、導入事業として小学校教育への協力を行なってきました。まず、全小学校へ教科書の供与を行ない、いくつかの小学校では顕著な成績向上がみられました。しかし、地域全体をみると、必ずしも顕著な成果は上がりませんでした。このことは、当会と教育担当官・教員は、地域の教育問題を更に踏み込んで話し合う機会を提供することになりました。ヌー郡の教員の多くは、専門的なトレーニングを受けて教員資格を持っています。教科書不足が解消されても成績が向上しないのは、教員の教授意欲(やる気)が低いことが問題である、との共通理解にいたりました。以来、教員トレーニング・環境ワークショップ・環境モデル事業など小学校と関係する事業において、教員の意欲を高めるための「動機づけ」の側面を重視しながら実施しています。

この動機づけは、「外因によるもの」と「内在化されたもの」とに二分して考えています。「外因」とは、褒賞・称賛・認知・支援・処罰など外部からの要因を受けて、教員が教授意欲を高めるよう誘導するものです。例えば、成績のよい学校や担当教員を表彰したり、その教員へ褒賞を与えるなどが、ケニアでよくみられる動機づけの方法です。一方、「内在化」とは、教員自身の職業倫理・意欲・問題意識・使命感・楽しみなど内的な理由を持つことによって「内発的」に教授意欲が高い状態を想定しています。

外部者である当会が、実施事業を通じて教員の動機づけに寄与するには、まずは、「外因」による動機づけの形成になります。けれども、重要なのは、教員がその動機を「内在化」できるように配慮することです。

例えば、環境活動・教育では、教員が具体的な環境活動に取組めるよう資材や技術などを支援することによって「外因による動機づけ」とします。環境活動と教科教育との新たな関連付け・創意工夫を促すことによって教員の知的刺激となること。学校菜園や苗畑・植林活動など教室を離れた形での子どもたちの新たな学習環境を紹介すること。近隣の学校の教員との新たな知的交流の場となること。それらを配慮することによって、教員が「内在化された動機付け」を形成して教授意欲の向上につながることを期待しています。また、この「外因」と「内在化」の関係は、住民参加型の村落開発全般についてもあてはまることかもしれません。

(2000年12月発行 会報第13号「活動の方向性」より)



[第12号]スラム奨学金支援から補習授業へ

代表理事  永岡 宏昌

終了が近い奨学金支援にはスラムの問題に取り組む事前調査の側面も
就業機会が限られ生活環境も厳しいナイロビのスラムへ、村落部から多くの人々の流入が続く事実をどうとらえるか−スラムの貧困の背景には更に村落部の貧困があると考えました。そして、当会はこの問題に取組むために、東部州ムインギ県ヌー郡・ムイ郡で地域住民を主体とした総合開発事業を始めました。一方、平行して都市スラムでもこの問題にも向かうことによって、初めてケニアの貧困問題に包括的に関わることができます。ナイロビのスラムからケニア各地に進学した高校生への奨学金支援は、そのような意味も込めて実施しました。

これを、将来スラムでの本格的な事業展開をするための人間関係作りや事前調査としての側面も意図しながら進めてきました。奨学金事業は、昨年度の奨学生11名の卒業につづき、本年度、11人が卒業して終了する予定となりました。しかし、当会の実力を考えると、現時点で、スラムの事業を本格的に展開するには無理があります。

補習事業で、細いながらも事業展開につながる地域社会との関係作りを
奨学金支援とともに、休暇でスラムに戻ってきた奨学生を対象に補習授業を実施してきました。最後となるこの8月に、スラムに暮らす高校3・4年生一般に対象を拡大したところ、多くの参加希望があり、受け入れた高校生は積極的に学びました。この補習授業の意味は、理科や数学といった苦手科目の復習ばかりでありません。住居が狭くて暗く、勉強できる環境がない生徒に、学習する空間を提供すること。さまざまな高校に通う学生の交流・協力や教科以外の知的刺激の場を提供すること。とかく「誘惑の多い」スラムのなかで問題行動を予防する場として機能することなど、さまざまな役割を意図して実施しています。教員としてケニア人教師のほか、ケニアで教鞭をとる青年海外協力隊々員の協力も得ています。

今後は、参加する高校生を年3回の休暇期間ごとにスラム内で募集して、補習授業を実施する予定です。意味のあるものになるには、高校生が補習授業にニーズを感じて自主的に参加することとともに、保護者の理解と支援が必要です。その意味では、地域社会との関係づくりを細いながらも発展させることができ、スラムでの事業展開につながるできると思われます。

(2000年9月発行 会報第12号「活動の方向性」より



[第10号]1999年度を振り返り、2000年度について考える

代表理事  永岡 宏昌

当会が、ケニア共和国のなかでも貧困な地域とされる東部州ムインギ県ヌー郡・ムイ郡で総合的な開発への協力を始めて2年間が経過しました。地域の人々が自らえがく「豊かな暮らし」を、自らの力で実現するために協力していくということを常に考えて活動してきました。この開発協力の導入事業と位置づけたのが、地域全域を対象とした小学校への教科書配布や教室建設です。そこへの支援を実施しながら、地域の住民や行政担当者との円滑な関係作りや、当会の活動姿勢が地域社会で理解され受容される環境作りをめざしてきました。

また、総合的な開発のために教育とともに重要な分野として環境保全および保健をとらえ、これらの事業形成もめざしてきました。教育・保健・環境保全の分野で共通することは、地域住民が長期的な視点をもって地道に活動に参加する必要がある点です。

1999年度は干ばつに近い状況の中、労働力の提供などで多くの住民が参加
1999年度は4月期の雨季の降雨がなかったため干ばつ的な状態が続きました。日々の生存をつなぐための食糧確保を優先しなければならない厳しい状況でした。そのなかでも、当会の協力する教室建設や診療所拡張事業に労働力の提供の形で多くの住民の参加が得られたことは大きな成果です。

また、ナイロビにおいて当会の事業として、スラム地域に生活する高校生への奨学金支援を行ないました。
ケニアでも日本でも正式にNGOの法人格認められ、新たな一歩を踏み出しました。

2000年度も住民の積極的な参加による教育、保健、環境保全の活動を
2000年度も教室建設を続けますが、住民の参加を労働力の提供といった面の充実ばかりでなく、ソフト面でも積極的な参加を求めるよう努めます。小学校支援では、教員の教授意欲の向上や保護者の教育への関与度合いを高めるための研究集会やその他の活動に取り組みます。また、保健分野では、住民が拡張したムイ診療所を自ら運営する制度づくりや、この診療所を拠点とした住民主体のプライマリ・ヘルスケア(基礎保健医療)活動の確立への協力を実施します。環境保全事業については、小学校を主体とした環境教育・保全活動の確立をめざします。

(2000年3月発行 会報第10号より)