2002年
[第21号] 環境活動を強化と関連付け、小学校に定着を]
代表理事  永岡 宏昌

ヌー郡での環境保全事業については、当初、住民の直接参加による植林や土壌保全などを目指していました。しかし、1998 、99 年と事業形成のために行なった調査で、住民が環境問題を直截に捉え、環境保全を真の目的とする活動意欲はみられませんでした。植林事業への参加は、短期的な食糧の獲得によって動機づけられていることが明確となりました。そこで、子どもたちが将来、環境保全を担えるように、小学校へ環境活動・教育を導入しました。彼らを通して大人たちが環境意識を高め、地域の環境保全につなげていくことも目的としています。いわば迂回経路を選択したのです。

小学校の環境活動で校長や保護者は、学校菜園を構想すると、「野菜を売る」、育苗・植林では、「材木として高く売れる樹木の植林」など、現金を得て学校経費に充てることに気をとられがちです。しかし定着するには、教育そのもの、特にケニア国家統一初等教育試験の成績へ直接貢献することに、重要な意味があると考えました。教科での教育との関連づけに、中心的な価値を置きました。

モデル事業では、特定の数校と合意して、それぞれ植林・学校菜園・木材加工など活動課題を定めました。当会は技術と資機材の面での支援、および運営上の助言などを集中的に行なってきました。一方で、関連づけのために研究発表会を開催することにしました。理科の特定の課題を、各学年の学習要領に沿って、身の回りのモノを活用しながら、それぞれの学年の子どもたちが実践的に展示・発表する1日の行事です。発表者または参観者として、ヌー郡の全ての小学校の生徒が関わることを目指しました。

モデル事業と研究発表会とを並行して実施することにより、モデル校の教員が、環境活動と理科という教科を関連づけて発想するようになりました。当初の特定の教員による課外活動的なものから変わり、理科に関係する複数の教員が積極的に参加する状況がみられるようになりました。教員には人事異動があるため、個人の並外れた努力だけでは、継続的な活動となることが難しく、多くの人が関わることが大切です。また、共同しての取り組みは、教員相互の刺激となっての教授意欲の向上にもつながると思われます。

この3年間、小学校のなかでの環境活動の定着を図ってきました。さらに、小学校から地域の環境保全に貢献する経路を視野に入れていく段階に、達したと考えています。

(2002年12月発行 会報第21号「活動の方向性」より)



[第20号]草の根無償資金の調査業務から得られること

代表理事  永岡 宏昌

当会がケニアにおいて実施している活動には開発協力の事業のほかに、日本大使館が供与する草の根無償資金に関する調査業務があります。草の根無償は、政府開発援助(ODA)のうち無償資金協力の小規模なもので、住民団体やNGOなどに供与されます。資金を供与された事業が円滑に実施され、的確に受益者の役に立つことや、住民団体の事業実施能力が向上することを目的として、調査が行なわれます。

調査業務には、団体が申請した案件についての実施可能性調査と、資金が供与された事業のモニタリング業務とがあります。実施可能性調査では、申請団体を現地訪問し、事業のニーズ、申請者の意欲と実施能力、行政機関の協力姿勢、住民の参加度などを確認。可能性が高いと判断される案件について、申請書内容の充実、添付書類の追加などを助言します。また、モニタリング業務では、資金供与を受けた団体が、大使館との合意に沿って事業を実施しているか、事業報告書・会計書類が適切に作成されているかなど、数度にわたる現地訪問などをとおして確認します。

1998年からこれまでに実施した案件は19件(うち5件は、実施可能性調査とモニタリング業務を共に実施)になります。事業実施団体である当会にとって、調査にあたり、さまざまな団体が作成する申請書を熟読し、申請者と話し合う機会を持てること自体が貴重な機会といえます。さらに、事業実施に関与し、時として予想外の問題に対峙することは、当会の活動とは異なる開発の現場を学び、事業実施・管理の能力強化につなげる機会でもあります。教室建設、図書館活動、肢体不自由者のリハビリテーション施設などの貴重な経験をしてきました。

この業務を通してケニアの人々の開発の底力を感じることが多々あります。特に開発の専門家ではないのですが、自分が属する地域社会のために、住民団体を組織して真剣に取り組む人がいました。要求が厳しい草の根無償の申請・実施・報告を高い水準でこなしている人に出会いました。一方、専門家の組織といえるNGOのような中間の団体が資金を受けた案件のほうに、事業実施がずさんなことがありました。住民の協力を得られないなど問題を抱えていることもあります。参加型開発におけるNGOの役割について考えさせられるところです。この調査をNGOのあり方を省みる場ともして、当会の事業に生かしていければ、と思います。

(2002年9月発行 会報第20号「活動の方向性」より



[第19号]まず、一般女性を対象に基礎保健を

代表理事  永岡 宏昌

ムイ郡での保健事業を考えるため、地域の保健医療にかかわる人々を3つのグループに分類してみました。第1グループは、公的医療機関である診療所に配置されている少数の看護士および公衆衛生技官。診療所での医療行為、公衆衛生など地域全域にわたって分野を網羅する役割を担う専門家です。

第2グループは、伝統的助産婦(TBA)、伝統治療者(TH)、地域保健士(CHW)など、いわば村の中で医療や保健に関する知識や技能に長けた人々です。第3グループは、それぞれの家庭生活のなかで、保健活動を実践していく人々、特に出産適齢年齢の女性が考えられます。

政府の財政難などから、第1グループの充実が難しいムイ郡では、これら3つのグループの相互連関と協力のなかで保健・医療状況を改善していくことが、継続性の点から重要であると考えます。

ケニアでは、NGOなど開発援助機関の多くが、第2グループとなる地域保健士や伝統的助産婦の人材育成に取組んできました。これによって、保健医療の知識や技能・サービスが、第3グループを通じて地域社会全般へ波及することや、地域住民の保健活動の

グループ化が促進される、との前提のようです。しかし、現実には地域社会への波及が進んでいないと見られます。トレーニングを受けた地域保健士などが、その知識・技能を利用して、地域のなかで特権化・個人の利得の拡大をめざす指向が強いため、ともいわれます。

この点から、当会の保健事業は、第3グループである一般の出産適齢期の女性を対象とし、多くの女性が保健医療の基礎的な知識・技能をみにつけるトレーニングを実施しています。これによって、保健医療サービスの受益者としての能力向上、家庭のなかで保健活動の実践、そして、近隣の人々への生活レベルからの波及などを目指します。さらに、トレーニングを終了した女性が、自然な形で、保健活動のためにグループを作ることを期待しています。グループ内から地域保健士や助産婦を目指す人材の発掘と育成につながれば、地域保健医療の向上に大きく寄与するものと思われます。また、このトレーニングに診療所の医療専門家の協力が得られれば、両グループ間の信頼関係の形成にも寄与するものと思われます。

(2002年6月発行 会報第19号「活動の方向性」より)


[第18号]2001年度を振り返り、2002年度について考える

代表理事  永岡 宏昌

2001年度は、活動を担う人たちのかかわり方に変化と進展がありました。

まず、日本人インターン3人がスタッフとなり、調整員としてそれぞれ教育、環境、保健の事業を、ケニア人専門家の協力をえながら進めたことです。

ヌー郡の教室建設において、資材管理に問題が生じたため事業を中断するような緊張関係が生じました。しかし、地域リーダーが問題に向かって、解決に至りました。

一方、環境事業では、教科教育と関連づける形で小学校に環境活動を紹介する一環で、生徒による研究発表会を開催しました。生徒の積極的な姿勢は、県教育局長からも高い評価を得るほどでした。

ムイ郡で開始した教室建設および机・いす支援に関して、ヌー郡での経験から、保護者との話し合いを慎重に行ないました。事業の実施主体であり資材管理の責任者であることの自覚を促すことができたと思われます。

保健事業では、基礎保健トレーニングを実施することで母親へ焦点をあてることができました。また、幼稚園を拠点とした幼児育成事業の実施可能性を調査し、担っている幼稚園教員が抱えている問題をはじめ、状況が明らかになりました。

これらの活動を当会と共同して遂行することで、仕事の手応えや業績の向上を感じるのか、積極的に協力する教育官や行政官が目立つようになりました。一般にケニアの公務員はNGOと連携することで個人的な利益を求めることが多いとされ、ヌー郡、ムイ郡でも同様の状況がみられます。その中で、こういった公務員が増えることも事業の成果といえるでしょう。

2002年度は、教室建設をヌー郡、ムイ郡で並行して実施します。教員トレーニングおよび環境活動・教育は、ヌー郡を中心としつつ、ムイ郡での準備活動を開始。保健事業は、グループ活動の形成を促がしながら、包括的な保健活動をめざします。幼児育成では、ムイ郡で幼稚園を拠点として教育と保健の分野に配慮した事業を検討。ナイロビのスラムでの高校生対象の補習授業を継続します。

これらの事業を通して、引き続き、住民自身が主体的かつ長期的視点にたって地域の開発活動に参加することを目標としていきます。また、公務員とNGOの適切な関係作りとともに、行政と地域社会および地域の住民グループ間の協力関係を作り出すことに対して、役割を果たすことも目ざしていきます。

(2002年3月発行 会報第18号より)