2004年
[第29号] インターン制度について
代表理事  永岡 宏昌

現在、当会は、年間数名のインターンを半年間ずつ、ケニアへ受入れる体制になっています。開発協力やアフリカ問題に、仕事として、市民活動として、深くかかわっていこうと考える人たちを、インターンの対象としています。

そして、インターンにとって、当会の事業実施を補佐することと、事業から体験・習得できることとがバランスよく、インターンと当会の双方に意義ある制度でありたい、と考えています。

まず、インターンには、開発協力のひとつの例として、当会の事業を、他との比較ではなく、それ自体を深く知ってもらいます。地域の人々の生活状況や習慣、それぞれの事業の現状、これまでの経緯といったことだけではありません。事業の背景にあるさまざまな考え方、現場での立ち居振る舞いや発言の仕方、地域をみる視点と、資金協力者・団体への視点などへの理解も含まれます。

次に、当会の日本人スタッフを補佐する形で、事業実施にかかわって、ケニア人スタッフや専門家、行政官や教員、地域住民などと、具体的な仕事での関係を体験します。

また、ナイロビ事務所で行なわれる週例スタッフ会議や、専門家を交えた個別事業会議に参加して、進行中の事業の振り返り、および事業展開の検討などに関与します。そのことで、個々人に開発や地域との関わりについての独自の視点を育ててほしいと考えます。

そして、事業の一部を責任もって担当することによって、補佐者や観察者として距離をおいてみる事業ではなく、当事者としての事業実施を体験してもらいます。

しかし、当会の事業規模は小さく、ケニア政府からの長期滞在許可が限られています。そういうことから、多くのインターンがスタッフになって、長期的に事業に参加してもらえる体制ではありません。 そのため、このような過程を体験することが、将来の開発協力やアフリカ問題へ貢献する原体験のひとつになることを、制度の意義と考えています。

一方、日本人スタッフの側は、自分自身で担当する業務をこなすばかりでなく、インターンを受入れて、業務を教え、任せていくことが、能力の向上につながります。

(2004年12月発行 会報第29号「活動の方向性」より)



[第28号]エイズ問題への取り組みについて

代表理事  永岡 宏昌

エイズの問題は、他のアフリカ諸国と同様に、ケニアにおいても深刻です。成人男女のうち十数人にひとりは、エイズの原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV)を保有している、と報告されています 。

エイズ問題は以前から認識されていたにもかかわらず、ケニア政府がこの問題の対策に積極的に取り組むようになったのは最近のことです。感染の拡大など状況の深刻化は続いていると推測されます。

対応の遅れには、エイズ予防の方策を、禁欲と夫婦間の性交渉に限定して、社会にコンドームが浸透することを阻止しようとする宗教勢力の影響がありました。現在、小学校・高校でのエイズ教育が、道徳面を強調してコンドームについては触れない方針をとっているのも、この流れを受けたもののようです。また、コンドームはエイズの予防には効果がない、という言説も宗教勢力から広範に流布され、正確な問題理解の妨げになっています。

今回、ヌー郡で実施した学校保健の事業形成調査でも、地域の人々がエイズ問題の深刻化を確信し、当会による至急の介入を要望していることが確認されました。

エイズはケニアでも至急かつ集中的な取り組みが必要な課題として注目を集め、外部からの資金が優先的に投入されています。しかし、エイズ予防の面では、住民が問題の所在を正確に理解して、自ら問題解決にむけて行動することが重要な点と思われます。

当会は、エイズ問題への取り組みも他の事業と同様に、この理解し社会として行動する力を向上させることに貢献したいと考えます。また、エイズは地域の人々にとっては、抱えるさまざまな問題群のひとつだと認識しています。

まず、ヌー郡の全小学校を訪問して、各校で教員、保護者および地域住民を対象としたエイズ啓発ワークショップを開催します。エイズに関する基本情報とコンドームを含む予防法を確認した上で、子どもたちに正確な情報を伝えるための教員および地域社会それぞれの役割を検討します。さらに、教員や地域の大人たち自身の課題として、小学校から地域社会へ内発的な行動変容を促がす議論が展開できるよう協力したいと考えています。

(2004年9月発行 会報第28号「活動の方向性」より



[第27号]伝統助産婦(TBA)トレーニングの参加者選びに基礎保健トレーニング修了者の協力

代表理事  永岡 宏昌

2000年からムイ郡で実施してきた母親を対象とした基礎保健トレーニングは、316人が修了して2004年2月に終わりました。「家庭の中で保健活動を実践し、近隣の家庭へ広めてもらう」(会報第19号参照)というこのトレーニングの目的は、ある程度達成できたようです。保健医療事業の次の段階は、地域住民から信頼される村の保健専門家の育成です。トレーニングの中で、ムイ郡の多くの女性がさまざまな危険な出産を体験し、不安を抱えながらも自宅で産み続けている状況が確認されました。2003年から、伝統助産婦(Traditional Birth Attendant)として活動している女性に、ムインギ県保健局の協力を得て、近代保健医療の専門的なトレーニングを実施することにしました。参加者は地域の最小単位である村落から一人ずつ選抜してもらいます。出産介助の技能向上に限定したトレーニングにするのではなく、むしろ産前産後のケアに重点を置き、妊娠中から子どもの成長まで適切に助言できる能力を獲得することを目指します。

まず、参加者の適切な選抜が重要となります。ムイ郡では伝統的な助産は報酬を求めない行為として住民から理解されています。しかし、トレーニングを受けることで、助産が新たな現金収入の機会となると期待する人がいます。助産の経験がない人も参加を希望し、村の有力者が住民の合意がない人を選抜するよう画策するケースもあります。そのような不適切な人材にトレーニングを実施しても、住民が出産介助を依頼しないことになり、いかされません。適切な人材の選抜について、行政官や村のリーダーからの理解と協力が得られるよう話し合いを重ねましたが、不十分と判断せざるをえませんでした。

そこで、基礎保健トレーニング修了者に対して産前産後ケアの意味についての追加トレーニングを実施。それぞれの村で住民の合意で適切な伝統助産婦を選抜できるよう協力をお願いしました。各村で、選抜される伝統助産婦と多くの住民に集まってもらい、当会のスタッフも参加して話し合います。その中で、住民が選抜している事実と、トレーニング参加期間、伝統助産婦に対して住民が行なう支援の内容についての合意を確認します。さらに、後日、トレーニング候補者と当会スタッフが面談し、具体的な助産経験や知識の度合いを聞いて、適切なトレーニング対象であることを確かめます。現在、このような形で適切なトレーニング参加者選びが進んでいるところです(4月末現在、20村で選抜)。
(2004年5月発行 会報第27号「活動の方向性」より)


[第26号]2003年度を振り返り、2004年度について考える

代表理事  永岡 宏昌

2003年度は、前年末に成立したキバキ政権による新政策の調整期間といえます。

ムインギ県において、当会事業への協力に対する報酬を求め続けていた行政官の圧力が高まりました。最終的な手段として県知事に仲裁を求めたところ、「行政官は、本来業務の一環としてCanDo事業へ無報酬で協力すべきである」という表明がありました。事業への評価もあるでしょうが、行政官の綱紀粛正の影響が大きいと思われます。

教育事業では、無償教育政策に関連して政府による教室建設を保護者が期待し、年度初めには教室建設・補修への参加意欲が低下しました。しかし、次第に現実への対応がみられ、年度末には多くの学校で活動が始まりました。幼児育成を事業として開始し、ムイ郡で教材供与や幼稚園教員への保健トレーニングを行ないました。

環境活動・教育では、当会事業は休止となりましたが、ヌー郡の小学校では自立的な環境活動の継続が確認されました。

保健では、ムイ郡での母親への基礎保健トレーニングがほぼ完了しました。伝統助産婦トレーニングの参加者選出は試行錯誤の状況で、今後の課題となっています。

2004年度は、ヌー郡で3年間の包括的な基礎教育改善事業を開始し、2006年度での教育事業の完了を目指します。教育事業では、ヌー郡で幼稚園舎も含めて、教室建設・補修の必要性の高い優先校を教育関係者が決める基準作りから協力します。ムイ郡でも事業を継続します。幼児育成では、ムイ郡で幼稚園教員への能力向上トレーニングと幼稚園で保健活動が行なえるように協力します。ヌー郡では、事業が可能かどうかみるために調査します。

環境活動・教育では、ヌー郡・ムイ郡とも、従来のモデル校への集中的な協力ではなく、意欲がある多くの小学校が参加でき、学校間の教員協力が促進される事業形態の確立を目指します。

保健では、ムイ郡で基礎保健トレーニング修了者をパートナーとして、地域に支えられた伝統助産婦の育成や幼稚園での保健活動の形成など保健活動の展開。ヌー郡では、小学校での保健活動を行なうかどうかを考え、まず、学校でのエイズ教育の実態と必要性の調査を行ないます。

ナイロビのスラムにおいては、高校生を対象にした補習授業を続けながら、次の段階の活動を引き続き探っていきます。

(2004年3月発行 会報第26号より)