2005年
[第33号] 「教育」の視点から取り組むエイズ問題
代表理事  永岡 宏昌

エイズ(後天性免疫不全症候群)問題は、ムインギ県においても深刻な問題です。しかし、地域の人々は、これまでも貧困の悪循環の中に留まるさまざまな課題を抱えていて、さらにエイズ問題が加わった、といえます。そこで、エイズ問題のみではなく、並行して多くの課題を解決することによって、地域の人々にとって豊かな地域社会の実現ができるものと考えます。一方、地域社会として性に関する行動変容が求められるエイズ問題は、当会がめざす地域住民の社会的能力の向上が、まさに問われるものだといえます。

当面、エイズ問題へ「教育」の視点から取り組んでいきたいと考えます。ここでの教育は、学校での教育(フォーマル教育)ばかりではありません。学校外での地域住民への教育(ノンフォーマル教育)、そして、家庭で親から子どもに教えたり、地域のなかでの住民同士で情報伝達したりする教育(インフォーマル教育)までを視野に入れたものです。

 エイズに関する情報が混乱しているなかで、地域社会として適切な対応をするためには、定型化されたスローガンの繰り返しの中で表層的にとらえるのではなく、多くの地域住民が、総合的に知識や技能を習得することが導入点だと考えます。学ぶべき内容としては、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)の感染メカニズム、エイズ発症過程、感染リスクの高い性交渉、性交渉以外の感染経路とリスク、予防法としての適切なコンドーム使用法などとともに、感染者との共存があります。

次に、それら地域住民が、広く情報を共有しつつ、地域の特殊事情を踏まえたエイズ問題を分析することを期待しています。そして、エイズ予防と感染者との共生社会を形成するための、さまざまな行動変容につながる社会的合意と活動の形成へと展開することが重要と思われます。

特に、コンドーム使用の一般化、大人による子どもへの性的搾取に対する社会の規制・監視は欠かせない要素です。また、小学校でのライフスキル(よりよく生きるために必要な知識や技能)向上につながる日常的なエイズ教育が実施されるように見ていくこと、家庭での親から子どもへのエイズ教育の浸透なども大切だと考えています。

なお、「ケニア共和国ムインギ県におけるエイズ状況に関する当会の認識とエイズ関連事業の取り組み方針について(2005年11月)」を、PDFファイルでこちらに掲載していますので、ご参照ください。

(2005年12月発行 会報第33号「活動の方向性」より)



[第32号]保健グループ活動について

代表理事  永岡 宏昌

2001年から3年間にわたって、当会はムイ郡において母親を対象とした基礎保健トレーニングを実施してきました。そのなかで、トレーニング参加者を中心とした、地域の保健グループ活動の形成を働きかけてきました。働きかけは助言にとどめ、資金や資材等の供与を行なわない方針で始めました。44グループのうち30グループで活動の継続がみられたため、2005年3月にツルハシなどニーズと要望が高い資材を若干貸し出して、活動の活性化をめざしました。

この保健グループ活動の確認のために、30のうち13グループを8月に訪問しました。多くのグループで、メンバーの家庭に順番に、トイレを掘る共同作業を実施していました。トイレがすでにある家庭では、畑の「テラスづくり(畑に水平方向の溝を掘り、表土や降水の流出を抑制する土壌保全の方法)」を共同で行なうことが多いようです。テラスづくりを優先するグループもありますが、多くはトイレを優先し、次の活動としてテラスづくりに取り組んでいます。共同作業としてトイレ作りが重視されるのは、基礎保健トレーニングの成果といえると思います。

メンバーが病気で働けない場合は、他の人が病気の人の個人の畑作業を手伝うことと、せっけん、小麦粉、砂糖を寄付することを、規約で定めているグループもありました。

また、注目した点は、共同活動後の話し合いや団らんのなかで、参加者が保健に関する知識、特にエイズ問題についての共有や相談を行なっているかでした。エイズに関する質問は、性行動に触れることになります。あまり話し合われていないグループでは、照れ笑いや「歳だから関係ない」というような反応になりがちですが、日ごろから話し合っているグループでは真剣な反応になります。

村の集会でエイズ予防のためのコンドームの重要性を説明し、装着の実演を行なったグループがありました。また、別のグループでは、メンバーから踏み込んだ発言を聞きました。

「夫にエイズについて説明しコンドーム使用を提案したが、拒絶した。でも、他の女性との性交渉では使用していると信じている」

2005年8月から、隣のグニ郡でも基礎保健トレーニングを開始しました。このなかでも、保健グループ形成を行ないますが、グループ活動の中での保健情報の共有の意義を再度強調していきたいと考えます。

(2006年9月発行 会報第32号「活動の方向性」より



[第31号]あらためて教室建設のもつ意味をみてみる

代表理事  永岡 宏昌

当会が、ヌー郡・ムイ郡で実施している事業のなかで、地域の人々に最も知られているのが、教室建設でしょう。3月には、住民による建設用の資材運びに、スタディツアーのメンバーが参加しました。この事業とその意味を、あらためて振り返ってみます。

会報29号の記事に書かれているように、「教室建設・補修にかかわる人たち」の「主」が、保護者である地域住民です。石、砂、焼成レンガなど現地で調達できる資材を全て収集し、建設の単純労働を提供。そして、建設職人の雇用と監督まで責任をもちます。

当会は、建設マニュアルとセメント、トタン、鉄筋、材木など外部で購入する建設資材を供与。建設専門家を派遣し、頑丈でシンプルな、品質が高い建設となるよう技術指導や助言を行います。壁塗りや塗装など、強度と必要な機能に関係しない工事は行いません。当会の協力がなくても、地域の人々が自分たちで造れる教室のモデルを提示しています。

そして、2004年からの新たな建設の選択肢として、「1教室プラス1基礎」を作りました。これは、教室の基礎工事と床作業までを隣接する2教室分行って、壁作りからの先の作業は1教室分のみ協力し、2教室目は自分たちで建設資材を購入して造るという進め方です。自助努力を後押しする目的です。

当会が、この事業の成果として重視するのは、「立派な教室」を完成させることだけではありません。最初に書いたように、地域住民が、単なる労働力、資材・資金の提供者でおわるのではなく、「責任ある事業の実施主体」となることが重要です。

そのために、学校の保護者全体が、事業の流れと仕事量を理解した上で、事業を開始する合意を形成できるよう話し合いを繰り返します。始まると、保護者代表は校長との共同責任者として、資材の出納と在庫の管理、作業スケジュールの管理、当会のマニュアル・技術指導に則った職人の監督などを行います。事業を実施する過程で、地域住民が合意形成や意見の調整、校長・行政官・当会との折衝などの社会的な能力を向上させ、自分たちの立場を強めていくことも、大切な目的です。

教室建設には村おこしの効果もあるようです。教室が十分でないために、遠くの小学校へ通っている子どもを地元に呼び戻す、それを目指すことが、住民の意欲につながっています。また、職業訓練として、保護者の多くが意欲的に建設技術の習得をしています。
(2005年5月発行 会報第31号「活動の方向性」より)


[第30号]2004年度を振り返り、2005年度について考える

代表理事  永岡 宏昌

2004年度は、3年間の予定でヌー郡での「基礎教育改善事業」を開始しました。これは、教室建設などの継続事業に、学校保健など新たな事業要素を加えた形で、包括的な事業展開をめざしています。

教室建設・補修については、当会が蓄積してきた経験と地域社会側の理解の向上などにより、これまでになく円滑な事業進捗を達成することができました。

環境活動・教育は、保護者参加の保障や教員の自発的な活動形成に課題を残すことになりました。

新たな事業では、学校保健への取り組みを検討するなかで、地域社会で深刻化・日常化しているエイズ問題へ対応することに取り組むことにしました。その第一歩として、的確な情報をもとに地域社会がエイズ問題を考えるきっかけとなるよう、小学校でエイズ啓発ワークショップを始めました。教員と保護者、地域住民を対象としています。

ムイ郡では、基礎保健トレーニング修了者をパートナーとした保健事業を展開しました。地域に支えられた伝統助産婦の発掘と育成をはじめ、2003年度の課題に進展がみられました。また、幼稚園教師の保健意識の向上が確認されました。

2005年度は、ヌー郡では包括的な基礎教育改善事業の2年目になります。教室建設・補修や環境活動・教育を継続します。

そして、小学校を基点としたエイズ啓発ワークショップから、教科とエイズ教育を関連付ける教員トレーニングへと展開します。また、幼稚園教師への保健トレーニングと保健活動形成への協力などに取り組みます。

ムイ郡では、当会の基礎保健トレーニング修了者、伝統助産婦、幼稚園教師などを主体とし、相互に連携する保健活動の形成に協力します。

これらの協力関係のなかで、新たにエイズ問題も視野に入れていきたいと考えます。小学校では、教室建設・補修の積極的な展開、エイズ啓発ワークショップの開催、環境活動の形成などをめざします。

そして、ヌー郡の事業終了も視野に入れて、新たに隣接するグニ郡での事業形成をめざします。

ナイロビのスラムにおいては、高校生を対象とした補習授業を続ける中で、地域社会で再現可能な事業となるよう検討を続けます。また、課題である次の段階の事業を、引き続き探っていきます。

(2005年3月発行 会報第30号より)