1999年
[第9号] 住民参加について
代表理事  永岡 宏昌

地域開発で住民が求められるもの
CanDoが活動するケニア国ムインギ県ヌー郡、ムイ郡の人たちは、地域の開発のために、様々な活動への労働力の提供・金銭的な貢献などが求められています。道路の修復、ため池の建設、水道管の敷設、植林、学校や診療所の建設など重要な社会基盤の整備に関わるものです。住民による自主的な事業のほか、政府や国際機関による公共事業や、NGOや教会、団体による国際協力事業などがあります。いずれの場合も、近年、「住民の参加」が強調される傾向にあるようです。CanDoの事業も「住民参加」を原則としています。

事業の優先度に大きく影響するフード・フォー・ワーク(FFW)
住民の立場からみると、家事労働や畑仕事・家畜の世話・小動物の狩りなど、日々の生活を営むための諸活動に忙しい中で、これらの事業への「参加」が求められているわけです。住民が事業への参加に優先度を感じなければ、無理に始めても、途中で「住民参加」がなくなって、中止することになるでしょう。

この住民による優先順位付けに大きく影響するものに、事業に参加した住民に対して食糧を提供するフード・フォー・ワーク(Food for Work 、FFWと略します)があります。ムインギ県全域で活動するドイツ技術協力公社(GTZ)は、住民を動員して効果的に公共事業を進める方法として積極的に位置づけています。確かに、食糧が供与されるため、住民の積極的な「参加」が得やすく、短期間のうちに成果を出しやすいという長所はあります。けれども、住民が「地域の自立」や「より豊かな地域社会づくり」などの長期的な視点を度外視して、とにかく食糧のために参加する、という傾向があります。FFWがなければ、住民はNGOの事業に参加しないのではないか、という人もいます。

FFWなくても参加する事業
しかし、この同じ住民が、数多くの小学校で、FFWがなくとも積極的に教室建設に参加しているのも事実です。そこには、子どもたちの教育をとおして、将来の「より豊かな生活」をめざす長期的な視点があります。同じように、母子の健康を守るために、住民が積極的に参加してムイ診療所の建設がおこなわれました。CanDoは、このような長期的な視点にたった「住民参加」を応援していきたいと思います。

(1999年12月発行 会報第9号「活動の理由」より)



[第8号]「部外者」として地方行政との関わりに見出す役割

代表理事  永岡 宏昌

ムインギ県ヌー郡の現場でプロジェクトを実施するにあたって、私たちCanDoがムインギ県知事以下の地域の行政担当者とどのような関係を持つか、は重要な点です。

教育など公共サービスの現状

本来ならば、ケニアの次の時代を担う子どもたちの教育の問題は、ケニア政府が優先して取組むべき課題であり、実際に「かなり努力していた」と言えるでしょう。ところが、国が抱え込んでしまった多額の借金と経済の低迷のため、このような公共サービスを以前より悪化せざるをえないのが、現在のケニアがおかれている状況です。例えば、ヌー郡長に郡内の行政機関のなかで唯一の公用車が割り当てられていますが、燃料費の予算が少ないため殆ど動かすことが出来ません。

CanDoに対する「歓迎」と「わだかまり」

教育・保健・環境保全などCanDoが実施するプロジェクトは、公共サービスに近いもので、理想的には地域の行政機関が住民と協力して取組むべきものですが、このような状況から、私たち部外者が「地域開発への協力」という形で関係しています。
このことは、行政とCanDoとの間に微妙な緊張関係をつくります。行政は、CanDoが必要な公共サービスを代替する団体として歓迎もしますが、一方、自分たちの仕事を部外者に任さざるをえない「わだかまり」のようなものもあります。

行政との対決ではなく円満な関係の中で

このような状況のなかで、CanDoは、地域住民のために行政と対決するのではなく、住民および行政双方との協力関係をつくり、三者間の円満な関係の中での地域の総合的な開発をめざします。予算がないため仕事が出来ない不満や挫折を感じている行政担当者に、まず、CanDoと協力することによって仕事を達成できる満足を感じてほしい。そして、行政担当者が、厳しい現在の状況の中で、住民と共に新たな役割を見出してほしい、と思います。

ケニアの行政は汚職ばかり横行して実務が機能していない、という非難をよく聞きます。しかし、私たちが現場で出会う行政担当者は、さまざまな個性はありますが、適切なつきあい方をすれば、お互いによきパートナーとして関われる人々だ、と考えています。
(1999年9月発行 会報第8号「活動の理由」より



[第7号] エンパワメントについて

代表理事  永岡 宏昌

CanDoは、私たちのどのような活動も「地域住民のエンパワメント」につながっていくべきだと考えています。

エンパワメントは「力をつける」というような意味ですが、地域の人たち自らが、「より豊かな生活」を実現していくために、地域の抱える障害や問題点をより深く理解し、自分たちで取り組める解決方法を探し、実施していく、そのような「地域社会の力」が強くなっていくことを「エンパワメント」と理解しています。地域の人たちが主体となった「村おこし」のようなものかもしれません。

CanDoがムインギ県ヌー郡で活動を開始したきっかけは、行政・援助関係者や地域住民が同地域を「貧困地域」と考え、貧困から抜け出すためにNGOによる開発援助を望んでいたことと、同地域の小学校の成績が比較的低く、その背景に地域の貧困があると推定できることでした。そして、外部者である私たちは、地域の人たちが「より豊かな生活」を実現していくために、共同して開発事業に取組み、その過程で「適切な」役割をはたすことによって、地域の人たちが「力をつけていく」ことに協力したい、と考えたからです。

昨年からヌー郡の全小学校への教科書の配布を開始し、今年は教室の建設を支援しますが、「不足しているモノを満たしていく」ことに活動の主眼をおいているのではなく、教科書配布や教室建設をきっかけに、教育への意欲が活性化されたり、地域の人たちが協力して地域の問題を解決する過程を体験できるように工夫することに活動の重点をおいています。

教科書については、教員と保護者とで管理するシステムをつくるように働きかけます。例えば、本棚を作る、教科書の管理台帳を作る、教科書の使用料を徴収して買い替えのための基金をつくるなどです。また、教科書の利用・管理方法に関するセミナーなどを開催して、教員の質的向上と相互交流の機会を提供することも、教員を「元気付ける」ために重要であると考えます。

何よりも、私たちと行政官や、時には日本からの客人が、小学校を訪問して、教員や子どもたちに「やあ!がんばっているね!」と励ましの声をかけることが重要なのかもしれません。

(1999年6月発行 会報第7号「活動の理由」より)


[第6号]1998年度を振り返り、1999年度について考える

代表理事  永岡 宏昌

1998年1月に設立したCanDo-アフリカ地域開発市民の会が活動する地域として選んだのが、ケニア共和国東部州ムインギ県ヌー郡です。ケニアの中でも貧困であるといわれるこの地域で、地域の人々が自ら豊かな社会について考え、それを実現するために自らが主体的に取り組む「総合的な開発」に協力していくことを原則としました。活動分野として教育・保健医療・環境保全を視野に入れて開始しました。

1998年度は、最初の事業として、ヌー郡内の2教育区にて全小学校へ教科書を供与しました。これは、当会が、この地域の教育環境を改善することにニーズがあると判断したことと、地域の多くの人々も共通して教育問題を深刻に捉え、改善の努力を行なっている状況であったためです。当会と地域社会とで行なう最初の共同事業としてふさわしいものであると考えました。1年間の活動を通して、地域住民および行政関係者との信頼関係の第一歩を築くことが出来ました。

また、将来、活動分野を広げて「総合開発」に発展させていくための準備として、ヌー郡の環境調査の実施および、住民が建設しているヌー郡ムイ診療所への協力も行ないました。

一方、ナイロビにおいては、スラムの高校生への奨学金の給付業務を行ないました。

1999年度は、ヌー郡内の残る2教育区への小学校教科書供与を完了し、それに加えて教室建設や教員のトレーニングの実施を計画しています。そうすることによって、地域の人たちがさらに教育環境の改善に積極的に取り組んでいくような動きを作っていきたいと考えています。教室建設では、教科書供与に比べて、住民に対して事業への参加の度合いを高く求めていくことになります。また、環境保全および保健医療についても、将来の事業化にむけて、住民の参加度を高めながら、さらに準備をすすめていきたいと思います。

奨学金事業では、日本での奨学金基金の募金からナイロビでの給付ならびに高校生へのカウンセリングまでをCanDoの事業としていきたいと考えています。この事業を通じてスラムの問題、都市と村落との関係を調査し、将来のスラム事業への展開を検討したいと思います。

日本においては、特定非営利活動促進法(通称:NPO法)による当会の法人化を進めたいと思います。

(1999年2月発行 会報第6号より)