2000年度活動報告
(2000年1月1日〜2000年12月31日)

≪構成≫
1.2000年度活動の概要
2.教育事業
3.環境保全事業
4.保健医療事業
5.スラム教育事業
6.コンサルティング業務
7.国内活動

1.2000年度活動の概要
当会は、1997年9月よりケニア共和国東部州ムインギ県ヌー郡およびムイ郡において、地域住民自らが貧困化から脱却するための住民エンパワメントに依拠した、総合的かつ持続可能な開発事業を実施している。本活動は、初等教育への協力を導入事業として、当会と地域社会との密接な信頼関係を醸成し、保健および環境保全の分野に協力活動を拡大している。この教育・保健・環境保全が、総合開発の活動分野であるが、この3分野での活動実施にあたって、地域住民のエンパワメント、地域住民主導による事業形成と運営、地域住民・行政・当会の均衡のとれた協力関係の維持を共通する活動方針としている。

対象地域であるヌー郡およびムイ郡一帯は、半乾燥地帯に区分され、多くの家庭は農業と家畜の飼育で生計をたてている。1997年末から1998年4月までのエルニーニョ現象の影響による大量降雨では、降雨による好影響よりも、水の長期滞留による農作物の根腐れや、重要な家畜であるヤギの病気による大量死など、地域の家庭経済に悪影響を与えた部分が目立った。一方、1999年4月期の雨季およびそれ以降の雨季に十分な降雨がなかったことにより、地域全域において食糧不足が続いている。本年度の厳しい生活状況による影響として、事業における住民参加度の低下、登校する子どもの減少、空腹による子どもの学習力の低下などが指摘されている。

2000年度は、ケニアでの当会の活動実施に関わった日本人は8名となり、ケニア人については常勤者2名の雇用と、建設(教育)・環境・保健の各分野の専門家3名とコンサルタント契約を結び質の高い活動実施を目指した。教育分野については、ヌー郡で1999年度から実施している教室建設・補修事業が、多くの住民の積極的な参加を得て順調に実施された。ムイ郡では1999年度の基礎教科書配布に続き小学校への補助教材の配布と使用状況のモニタリングを実施した。また、ヌー郡では1999年度に引き続き、教員の教授意欲を高めるために教員トレーニング事業を実施した。保健分野については、住民主導で取り組まれているムイ郡ムイ区のムイ診療所拡張事業、および拡張後の診療所運営体制の確立に向けた協力を行なった。また、ムイ郡カリティニ区では、キティセ診療所を拠点とするプライマリ・ヘルスケア(基礎保健医療)事業形成の導入として、予備調査および利害関係者との関係構築を進めた。環境保全分野については、1999年度までの調査結果を踏まえ、新たにヌー郡の小学校における環境教育・保全活動の推進に向けて活動を開始した。また、ナイロビ市ムクル・スラムでは、特定の高校生への奨学金支援から、同地域在住の一般高校生を対象とした休暇期間中の補習授業クラスの開設へと展開した。

一方で、様々な問題にも直面した。教室建設では資材管理が行き届かず、ムイ診療所では住民の参加による運営制度づくりが進まなかった。また、ヌー郡で雇用したアシスタントの育成が期待通りには進まず、これらは2001年度に向けての課題として残った。

2.教育事業
ケニアの教育制度のもとで、小学校は義務教育の対象ではなく、小学校にかかる費用は教員の給与を除いて、すなわち学校で使用されるチョーク1本から教室建設にいたる維持運営費用ならびに、制服やノート・鉛筆から高価な教科書にいたる個人費用まで全額保護者負担となる。現金収入が乏しい村落地域にとって、こうした学校教育にかかる費用は大きな負担となっており、特に近年続いているような干ばつの時期には更に厳しい状況となる。

1997年に対象地域で実施した当会の調査で、多くの小学校では、教員が教壇で使用する教科書やガイドブックをそろえるのが精一杯であり、学校によってはクラスに教科書が1冊しかないということも珍しくない状態が確認され、教科書の供与を最優先課題として取り組むこととした。また、教室についても、多くの学校で不足しており、樹木の下や壊れかけた仮小屋で授業している光景も一般的であり、雨や強風になれば授業は中止される、子どもたちが授業に集中できない、教科書が摩耗して短期間で使用できなくなるなどの問題につながっているため、教室建設への協力も1999年度より開始した。教室建設への協力は、保護者が現地調達可能な資材や労働力の提供を無償で行なうことを条件とし、ニーズが高い小学校から順に進めて行くことにしている。また、ケニア人建設専門家による現場指導を通じ、地域の建設職人の技術向上を図り、さらには建設マニュアルを作成することで、当会による支援の終了後も、住民が低コストながら耐久性の高い教室を主体的に建設していくことができるよう配慮している。

当会が、教育支援でめざすものは、教員と保護者を中心とした地域社会が協力して、「子どもたちがのびのび学ぶ」ことができるよう地域の教育環境を改善することによって、将来、この地域社会のなかから「より豊かな社会」を築く担い手を育てていくことにある。この教育環境の改善とは、教室や教科書のようなハード面ばかりでなく、教員の能力や「やる気」、保護者や地域社会の教育への関心・参加・支援などソフト面も重要であり、この両面がバランスよく向上していくことである。このような視点から、教員を「励ます」ことを現場での日常的な活動姿勢としていたが、1999年度より事業の一部として教員トレーニングを企画し、実施してきた。

一方、対象地域の教育区ごとのKCPE(ケニア初等教育統一試験)平均点の推移は別表の通りであり、1998年からの当会の支援が地域の教育環境の改善に貢献していると評価されている。

(1)教科書配布(ムイ郡)
2000年度は、1999年度に7、8年生への先行配布を行なったムイ教育区及びカリティニ教育区への教科書支援を継続した。両教育区にある小学校24校(生徒数約4,000人)の全学年を対象に、基礎教科書と補助教材を配布した。教科書は合計約15,000冊で、加えて壁掛け地図、地図帳、問題集、参考書、地球儀、黒板用算数セット、生徒用算数セットなどを配った。

これにより、ヌー郡及びムイ郡の全小学校を対象に1998年に始めた教科書配付事業は、2000年10月で完了した。

(2)教室建設・補修(ヌー郡)
1999年度に開始したヌー教育区の小学校3校における教室建設(2校)、及び補修(1校)、並びに2000年2月に開始したカヴィンドゥ教育区の1校における建設が、保護者の積極的な参加を得て完了した(各1教室)。他に5校(ヌー教育区2校・カヴィンドゥ教育区3校。各1教室)の教室建設と、1校(カヴィンドゥ教育区2教室)の教室補修が進んでいる。

2000年度に実施する予定だった机・イス支援事業は、地域住民との話し合いを続けている段階であるため、2001年度まで延長することとした。資材や作業道具などのハード面だけではなく、製作技術や管理・運営などのソフト面での支援に重点をおくように話し合いを進めている。

(3)教員トレーニング(ヌー郡)
教育水準を向上するためには、教科書配布、教室建設・補修、机・イス支援などのハード面での支援だけでは十分でない。それらを適切に有効利用していく人材育成などのソフト面での支援も重要である。小学校の教員を対象に、意欲をもって教育に取り組めるようトレーニングへの支援を行なった。 1学期(1月から3月)と2学期(5月から8月)にかけて、「教員の教授意欲を高めるためには」をテーマにして、小学校の校長および教務主任を対象にしたワークショップを3回開催した(2月、3月、6月)。3学期(9月から11月)は、KCPEへ向けた試験準備等で各小学校は忙しいため、ワークショップの開催は見合わせた。

また、意欲を高める活動の一環として、ヌー教育区およびカヴィンドゥ教育区で開催された賞授与式(プライズギビングデー)に参加した。当会は、前年度に成績が優秀だった小学校、生徒、教員への表彰を行なうこの行事に際して、毎年KCPE平均点で第1位となる小学校へ贈られるトロフィーを各教育区の視学官事務所へ寄贈した。これは、意欲ある活発な小学校や教員を評価・表彰することで、他の小学校や教員の意欲を高める効果を狙ったものである。

3.環境保全事業
2000年度は、ヌー郡の小学校における環境教育・保全活動への協力を実施した。1999年の時点では、住民による荒廃地の植生復興活動への協力を目指して準備を進めていた。ところが、様々な援助機関によって過去にヌー郡で行なわれた住民対象の環境保全活動の多くが失敗に終わっているという事実及びその原因がその後判明した。この失敗は、住民がFood for Work (フード・フォー・ワーク:労働の対価として食糧を供与して住民を動員する事業実施の手法)を前提とする環境事業への参加に慣れてしまっていることに因るものであり、その結果、食糧供与という短期的な動機付けを伴わずに住民参加型事業を実施することが困難な状況となっている。一方で、当会が1998年より教育支援を実施しているヌー郡の小学校では、住民である保護者が子どもたちの教育のためという長期的な視点に立ち、食糧や金品という報酬がなくても継続的に教室建設などの開発事業に取り組んでいることが一般的である。そこで、地域住民を直接に対象とする環境活動は時機尚早であり、小学校を拠点とする活動へと方針を転換し、地域において長期的な視点に立った環境保全活動が定着するよう協力していくことのほうが、将来における地域の環境保全に貢献するとの結論に至った。なお、環境事業の実施にあたり、活動対象地域周辺の動植物や気候、伝統的な知識、そして小学校や高校における環境教育に関する知識と経験が豊富なケニア人環境専門家の協力を得て、地域の実情に即した活動を目指した。

具体的な活動として、小学校への環境教育・保全事業の導入を目的として、ヌー郡の小学校全28校の教頭を対象に、環境活動と教科教育の関連を提示するワークショップを開催した。また、子どもが地域の環境に関して持っている知識や見解を調査するために、7校で環境意識調査を実施した。その過程で、特に環境活動に興味を示した6校でモデル事業を開始した。その内容は、学校菜園・植林が3校、植林のみ、木材加工、養蜂が各1校ずつとなっている。さらに、モデル事業実施校のうち2校で、周辺校の教員を交え、環境活動の実践について理解を深める教員対象のワークショップを実施した。モデル事業では、当会からは、資材の提供や、定期的に訪問して助言を行なった。具体的な活動が始まるよう支援するとともに、定着するよう運営体制の確立を目指した。また、教員が実際に事業を教科教育に活用できるよう、進展状況に合わせて学校単位のミニ・ワークショップを2校で実施した。

4.保健医療事業
当初の計画では、2000年度は住民主導で行なわれているムイ診療所の拡張事業の完了を1999年度に引き続き支援し、完了後に準保健センターとして機能できるような運営体制の整備に継続して協力し、同センターを拠点にした住民主体のプライマリ・ヘルスケア(基礎保健医療)事業が形成されるよう活動を進めていく予定であった。ところが、診療所の拡張事業が完了して、新たな診療所運営委員会の発足をめぐり、次期の県議会議員選挙を視野に入れた地域の有力者の政治的な地位強化の争いが激化し、住民を巻き込んでの対立状況を生み出すこととなった。また、看護士を1名補充して2名体制とするという政府の約束が実現されていないことも影響し、運営体制の確立は進まず、拡張後の診療所における予防接種の開始にはしばらく時間がかかる模様である。したがって、ムイ診療所の運営体制の整備ならびに同診療所を拠点とするPHCシステムの構築を、同時期に並行して進めることは困難であると判断した。

一方、1999年に新たに郡に昇格したムイ郡は、ムイ診療所の属するムイ区とキティセ診療所の属するカリティニ区で構成され、新郡長事務所はカリティニ区マルキ村に開設された。キティセ診療所はマルキ村に位置することから、今後、同診療所がムイ郡の公的な医療・保健サービスの中心となり、将来的には診療所が格上げされて保健センターの形成が行なわれる、と予想される。したがって、ムイ郡での地域保健への協力を考える場合、キティセ診療所も重視する必要がある。

そこで、2000年度は、ムイ診療所運営委員会の会議にオブザーバとして参加し、ムイ診療所の運営体制の整備に協力を続ける一方で、11月よりキティセ診療所を拠点とする地域保健活動の形成に向け、地域の医療従事者や行政官からの聞きこみによる保健予備調査を実施し、地域の医療従事者や行政官との関係構築を進めた。予備調査の過程で、キティセ診療所には乳児用体重計がないため、母子保健の重要な要素である体重測定が行なわれていないことが確認されたことを受け、当会から乳児用体重計を供与した。その結果、その後同診療所において間もなく体重測定が開始され、各乳幼児の情報が個人カードに記録されるようになった。

5.スラム教育事業
(1)奨学金支援
本年度も継続してナイロビ市工業地帯のムクル・スラムに居住する高校生11名へ奨学金を供与した。2000年12月にこれらの奨学生が高校の全課程を修了したことをもって、奨学金給付事業は完了した。2000年度は、保護者が学費を払えないために生徒が自宅待機処分となる日が長引くことは少なく、退学もなかった。 2000年に11名の奨学生が受けた卒業試験の結果は良好で、彼らの多くも進学をめざすものと思われる。ケニアでは高校卒業後、卒業証明書を取得したり大学進学に至るまで1年から2年の時間を要し、その間に希望する学部の選択、願書提出、学費や教材費の工面などをする必要がある。特にCanDo奨学生の場合は家庭の経済的状況に恵まれていないことや、身近にこれらの過程について相談できる人が少ないことから、今後も進路相談や就職・進学のためのフォローアップも続けていく。 また、1999年度に卒業した11名の奨学生のほとんどは、現在何らかのアルバイトで収入を得ながら、その多くが進学をめざしている。

(2)補習授業
一方、1999年度までは当会の支援する奨学生のみを対象に実施していた学校休暇中の補習授業を、同スラム地域に居住する他の高校生にも開放した。補習授業は4月、8月、12月の休暇中にそれぞれ開催され、合わせて毎回約20名の高校生が参加した。この補習授業では、多くの生徒が苦手とする理数科の講義をはじめ、一般教養の講義や社会科見学、さらにケニアで活動する日本の青年海外協力隊隊員有志の協力を得て理科の実験授業を採り入れるなど、興味を持って学習できる機会の提供を目指した。なお、2000年8月期より、参加者から一律低額の参加費を徴収し、当会の支援に対するスラム地域住民の依存心を最小限に押さえること、また住民自身も事業に貢献しているという自立心を促すことを目指した。

6.コンサルティング業務
在ケニア日本大使館から草の根無償資金協力のコンサルティングとして資金供与が実施された案件に対するモニタリング業務と申請案件に対する実施可能性調査を受託した。

(1)モニタリング
前年度より6案件が継続となり、うち4案件が本年度に完了し、2案件がさらに継続となった。この6案件のうち教育施設拡充が3件、子ども向け書籍等の購入が1件、医療施設拡充が2件である。

(2)実施可能性調査
本年度、3件の教育施設拡充のための実施可能性調査を受託し、翌年度への継続調査となった。

7.国内活動
(1)会報等の発行
・会報「CanDo アフリカ」を4回(第10〜13号)を発行(A5判8ページ。但し10・11号は12ページ)
・ホームページの充実を図る計画だったが、更新を最小限にするだけにとどまった。

(2)イベントへの参加
・10月7〜8日、東京・日比谷公園で開催された「国際協力フェスティバル」に参加。1999年度に引き続き、スタッフと会員有志による活動紹介、ケニアのTシャツ・紅茶・その他民芸品等の販売、クイズ企画「クイズに答えてカンガを当てよう!」を実施した。

(3)報告会・講演会
・6月19日 − 当会会員・藤田明香氏(1999年4月から9月にかけCanDo事業地のムインギ県ヌー郡において教育調査を実施)による調査報告会を開催。
・11月1日 − 事務局長 國枝信宏による活動報告会を開催。
・その他、各種団体・グループから機会をいただき、講演や活動紹介を行なった(キ・アフリカ、NHK地球ラジオ、JICA神奈川国際水産研修センター、東海大学健康科学部(2回)、JICA広報番組「地球家族-JICA Report」 他)。


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