2003年度活動報告
(2003年1月1日〜2003年12月31日)

≪構成≫
1.2003年度活動の概要
2.教育事業
3.幼児育成
4.環境保全事業
5.保健事業
6.スラム教育事業
7.コンサルティング業務
8.国内活動

1.2003年度活動の概要
当会は、1997年9月よりケニア共和国に日本人調整員を派遣し、東部州ムインギ県ヌー郡及びムイ郡において、地域住民自らが貧困化から脱却するための住民エンパワメントに依拠した、総合的かつ持続可能な開発事業を実施している。本活動は、初等教育への協力を導入事業として、当会と地域社会との密接な信頼関係を醸成し、保健及び環境保全の分野に協力活動を拡大している。この教育・保健・環境保全が、総合開発の活動分野であるが、この3分野での活動実施にあたって、地地域住民の社会的能力向上をめざして、地域住民主導による事業形成と運営、地域住民・行政・当会の均衡のとれた協力関係の維持を共通する活動方針としている。

2003年度は、当会のケニアにおける活動実施に携わった日本人は10名であった。ケニア人については、常勤者2名を雇用し、さらに建設(教育)・環境・保健の各分野の専門家3名とコンサルタント契約を結び質の高い事業実施を目指した。

教育分野については、ヌー郡及びムイ郡において、住民参加型の教室建設・補修、学校単位の教員トレーニング(ヌー郡のみ)及び、机いす修繕・製作への協力(ムイ郡のみ)を通じて、地域の小学校の教育環境改善に協力した。環境保全分野については、ヌー郡の小学校における環境活動・教育への協力事業を3月で中断し、その後に事業評価を行ない、一部ではあるが自立的な活動展開を確認した。また、ムイ郡の小学校における環境保全活動の協力を開始することを目的として、環境保全活動と教科学習(特に理科)との連携についてのワークショップを実施した。保健分野については、ムイ郡において出産適齢期の女性を対象とする保健トレーニングの継続、幼稚園教員を対象とした同様の保健トレーニングと幼稚園関係者を対象とした幼児育成における保健ケアに重要性を提起する会議を実施した。また、伝統助産婦の専門トレーニングの準備、キティセ保健センターの母子保健サービス体制の確立、ムイ診療所の運営体制の確立に向けた協力を行なった。

一方、ナイロビ市ムクル・スラムにおける教育事業として、同地域在住の高校生を対象に、高校の定期休暇中(4月・8月・12月)の補習授業を開講した。また、2000年度にて完了した奨学金給付事業を受けて高校を卒業した奨学生に対し、進路決定に関わるサポートを行なった。

なお参考までに、ヌー郡・ムイ郡の教育区ごとのKCPE(ケニア初等教育統一試験)平均点の推移は以下の通りである(1997-2000年は700点満点から500点満点に補正した得点)。1998年からの当会の協力活動が地域の教育環境の改善に貢献している、と地域の行政や学校関係者から評価されている。


2.教育事業
2−1.教室建設・補修(ヌー郡・ムイ郡)
(1)ヌー郡
ヌー郡においては、2002年度に作業が開始されたヌー区の小学校1校(シュマケレ)で、新規教室の建設(1教室)が継続された。2003年12月時点で、残り作業は床仕上げである。また、ウインゲミ区の2校(イビアニ、カウェル)における新規教室の建設(各1教室)、並びにウインゲミ区の1校(トゥバーニ)における既存教室の補修(8教室)への合意に至り、実際の建設・補修作業が開始された。 イビアニ小学校では、2003年9月に建設作業が完了し、カウェル小学校では、2003年12月時点で残り作業は床仕上げである。トゥバーニ小学校では、2003年12月時点で1教室目の補修が完了し、2教室目の補修作業に取り組んでいる。

(2)ムイ郡
ムイ郡において、2002年度に作業が開始されたカリティニ区の小学校2校(カボコ、ユンブ)において、2003年度にカボコ小学校では新規教室の建設及び補修(各1教室)が完了し、ユンブ小学校では引き続き新規教室の建設(1教室)が継続された。さらに、ムイ区の2校(ルンディ、カテイコ)における既存教室の補修(各6教室)への合意に至り、実際の教室補修作業が開始された。 また、ムイ区の1校(ムイ)における既存教室の補修(4教室)と、同区の1校(キヴュニ)における新規教室の建設(1教室)への合意に向けた話し合いが開始され、合意形成と共に保護者による現地資材収集が開始された。

なお、当会の協力する教室建設・補修ではこれまで、現地資材(砂利、砂、水、レンガなど)は地域住民が提供し、その他の外部資材(セメント、トタン波板、材木など)を当会が提供してきた。しかし、補修の場合、補修の対象となる部分によっては保護者の労働貢献が少なく、一方で外部資材の比率が高い場合もある。そこで公平性の観点から、補修については状況に応じた話し合いにより地域住民に一部外部資材の購入を負担してもらうことを新たな方針とした。

2−2.教員トレーニング(ヌー郡)
2003年度は、ヌー郡内の小学校を、当会ケニア人教育コーディネータと地域の教育行政官とで訪問し、対象校の全教員及び保護者を対象とした学校単位でのワークショップを実施した。各校で当会教育コーディネータのファシリテーションにより「教員の内発的な動機付け」をテーマとしながら教育環境や学校運営について、現状・問題分析を行ない、今後の具体的な提案・行動計画の作成を行なった。ヌー郡内の28校中、残る3校のうち、本年度は2校(グエニ、カビンドゥ)においてワークショップを開催した。カーイ小学校では、複数回にわたり、学校の都合で、ワークショップ開催が一方的に取りやめられたため、校長が当会との事業を望んでいないと理解し、カーイ小学校での実施を待たず、一連のワークショップの完了とした。

当会は、対象地域の小学校において、保護者の役割が学校運営のための諸経費の負担と学校施設の拡充のための労働力と資金の提供に限定され、教員の意欲や質、子どもの教育のあり方など教育環境の向上に関与する機会がみられないこと、特に保護者と一般教員が話し合う機会がないことが、地域の教育環境改善を妨げている1つの問題点であると認識してきた。このワークショップに保護者が参加することによって、保護者が教員への不満や疑いを表明する、あるいは教員が地域社会への警戒心を表明するなど直接的な対話が成立するケースがみられた。また、多くの学校の保護者が、教員への動機付けなど教育環境の向上に果たすことができる役割があることを認識した点も重要である。

2003年度は、この事業の評価も行なったが、参加する教員同士、そして教員と保護者とが話し合う機会を持てた学校においては、関係の改善に一定の成果があったことが確認できた。


2−3.机イス修繕(ムイ郡)
ムイ郡では、損壊した、あるいはしそうな机イスを自主的に修理することを希望する小学校に対する作業工具の供与を目的として、2002年度に引き続き、各学校からの申請を受け付け、申請を受けた各校との話し合いを開始した。

2−4.机イス製作(ヌー郡・ムイ郡)
上述の机イス修繕と並行し、当会からの協力の有無に関わらず、新規教室の建設を完了した学校を対象とし、学校が机イス製作作業及び活動を行なうかたちで、当会から机イス製作に必要な資材を供与することを検討し、教育事務所との調整を開始した。この背景には、教室建設が完了しても、その内部をすぐに整備するだけの余裕が保護者にはないために、正しい自然な姿勢で授業を受けるための机イスが教室に揃うまでに何年もかかるという現状がある。また、机イスの整備よりも教室建設・補修の方が必要性・緊急性が高いと判断される傾向にあるため、複数の教室が不足している、あるいは既存教室に補修の必要があるような小学校の場合、1教室が新規に建設されても、机イス整備の優先度は相対的に低くみなされ、先延ばしにされてしまうことも、机イスの製作協力を検討することにした背景にある。

机イスに関しては、修繕・製作を合わせ、ムイ郡のカリティニ教育区5校(カバリキ、ギルニ、マルキ、カボコ、ガー)及びムイ教育区7校(ルンディ、キブラ、キヴュニ、カテイコ、ムソカニ、ジア、ムイ)から協力要請があり、教育事務所を通じて各小学校との話し合いを開始した。2003年12月時点で、机イス製作において3校(ギルニ、マルキ、ガー)との合意に至った。


3.幼児育成(ムイ郡)
幼稚園は、教育の場であると同時に、特に子どもの半数以上が栄養失調状態にある対象地域においては、子どもの健康を守り増進させるための場となることが期待されるべきであるにも関わらず、2001年度に当会の実施した調査の結果、地域において幼稚園は小学校入学前の準備施設として教育の面が主に認識されていること、また、幼稚園教員は小学校教員に比べ非常に低い賃金を得ながら、多用な年齢層の多数の幼児を受け持つという厳しい勤務条件のもとに置かれていることが明らかになった。これを受けて、当会は、地域からの幼稚園に対する認識を改善することおよび、教育と保健の適切なバランスに配慮しながら幼稚園教員の意欲を高めるための事業が必要であると判断し、事業形成準備として、2002年度より教育省、県及び郡の行政官及びリーダーとの話し合いを継続してきた。

2003年度の事業としては、まず、幼稚園及び幼児育成に関する教員のための参考図書が不足している状況を改善するため、6月に郡内の全30幼稚園に対し、県の幼児育成事務所より推薦された図書リストをもとに幼稚園及び幼児育成に関する参考図書5冊の配布を行なった。

また、幼稚園における子どもの保健状況を改善するためには、幼稚園教員が保健の知識・技能を身につけることが重要であると分析し、これまで出産適齢期の女性を対象に行なってきた基礎保健トレーニングと同様のトレーニングを7月に幼稚園教員に対しても実施した。さらに、郡内の全30幼稚園から32名の幼稚園教員が参加したこのトレーニングの中で、幼稚園教員から、それぞれの園で保健衛生の状況を改善するための活動を形成するためには地域からの理解と協力が必要であるが、これらが十分でないこと、そのため現状では活動の実施が困難であるとの指摘があがった。これを受け、基礎保健トレーニングの後に計画していた、より高度で幼児育成の分野に焦点を当てた、専門的な内容の上級編トレーニングを実施する前に、幼稚園に対する地域からの理解並びに協力を促すことを目的として、幼稚園関係者(幼稚園を管轄する小学校校長、学校委員会議長、幼稚園教員、幼稚園部保護者代表)を対象とした会議を開催し、幼稚園及び幼稚園教員に対する認識の共有及び幼稚園で広く見られる問題についての対応策を話し合う会議を10〜11月に4回開催し、郡内の全幼稚園からの参加をえた。同会議の中では、幼児育成の中で主に保健に関わる分野の重要性や、幼稚園及び幼稚園教諭に期待される役割の重要性、地域の理解と協力の必要性などについて、当会保健専門家から参加者に対して問題提起と解決策の話し合いを行なった。同ワークショップで話し合われた内容については、全幼稚園に配布し、各幼稚園において具体的な活動を策定する際の参考にしてもらうことを計画している。また、2003年度に実施予定であった、幼稚園教員対象の上級編トレーニングについては、2004年度に実施することとなった。


4.環境保全事業(ヌー郡・ムイ郡)
(1)ヌー郡
同郡での環境保全事業開始から5年が経過したことを契機に、本年度4月に、2000年度から協力を続けてきた小学校でのモデル事業及び、2001年度から2回開催された郡レベルの研究発表会とその運営主体として設立された理科教員フォーラムへの協力を一旦中断し、それぞれの活動の自立性・持続性を確認すると同時に、5年間の環境保全事業の評価を行なった。モデル事業実施校及び非モデル実施校の小学校教員及び保護者、教育事務所を対象に、これまで協力してきた様々な環境活動が小学校の教員及び地域に対しどのような変化を生み、その成果は何であったのか、事業目標に対する達成度についての評価を目的に聞取り調査を行なった。この中で同郡にて当会による協力を受けて行われてきた環境活動が、教員の保護者との関係や生徒に対する認識、及び教授法などに関して、一定の変化を産んできたこと、またモデル事業実施校については、教員にとって活動を継続する負担が大きいにも関わらずその効果を認めている旨の発言が得られた。一方、課題として、環境活動への地域からの理解やモデル事業から周辺校や地域への波及については、堅著な結果が出ていないことが明確になった。また、モデル事業の協力を通した小学校での環境保全活動の持続性については、一部の学校において当会からの協力が中断すると同時に活動も実質休止したが、複数のモデル事業実施校(ヌー、ムアンゲニ小学校)において、当会の協力なしに何らかの活動が継続されていることが確認され、環境保全活動の意義が理解されていると言える。これらの評価結果を受けて、小学校における実践的環境活動へのさらなる協力の必要性を認め、事業実施方法及び方向性について再検討することとした。

なお、2001年度から2年連続して開催された郡レベルの研究発表会について、当初の予定通り今年度は当会からの協力は行なわず、教育事務所及び理科教員フォーラムを中心に地域の協力のもと開催されることが合意されており、また複数の小学校教員から、今年度の郡レベルの研究発表会の開催を期待する声が上がっていたにも関わらず、様々な要因によって2003年度については実施に至らなかった。但し、一部の小学校(ヌー、ムアンビウ小学校)では、小学校単位の研究発表会を独自に企画し、他校の生徒を招待したことが聞取り調査の中で明らかになった。

(2)ムイ郡
小学校における実践的な環境活動の形成とその教科学習への応用を促すため、2002年度にカリティニ教育区において実施した、理科教員を主な対象としたワークショップをムイ区においても2003年7月に実施した。14小学校から27名の教員が参加したこのワークショップの中では、身の回りの環境とその保全活動、及びそれらと教科教育(主に理科)との関連付けを提示し、このワークショップを受けた教員らが各学校において具体的に活動を形成することを促した。


5.保健事業(ムイ郡)
2003年度は、1〜3月にかけて2002年度末より開始したカリティニ区における出産適齢期女性を対象とした基礎保健トレーニングの修了者を対象に、フォローアップとしてトレーニングにて習得した知識及び技能の各家庭における実践状況の観察と必要に応じた助言の提供、及び地域における保健衛生・栄養に関する情報収集のための家庭訪問・聞取り、そして1日間の復習コースを継続し、同区キティセ・ユンブ両準区において計4回実施した。また、2002年度末に行政官が意図的に住民集会にて選出された参加者とは別の女性をトレーニングに参加させるという問題が発生した同区ユンブ準区については、住民集会にて選出された参加者に対する特別救済措置として追加トレーニングを実施した。
また、7・8月には、カリティニ区にて復習コースの中で形成を促した参加者による保健グループの活動現場の視察及び話し合いの場を設け、効果的かつ定着する活動内容を目指した助言を行なった。

4月からは、ムイ区においても出産適齢期女性を対象とした基礎保健トレーニングを実施するべく、リーダーとの話し合いを開始し、6〜7月にトレーニング参加者を選出するために住民集会に計4回参加した。7〜10月にムイ区の全3準区におけるトレーニング計9回を実施し、11月から、家庭訪問及び復習コースから成るフォローアップを計2回実施した。
このトレーニングは、地域住民を直接対象とし、保健衛生・栄養に関する基礎知識などの向上を図ることを目的とし、これによって、多数の女性がそれぞれの家庭で保健衛生・栄養状況の改善に取組むこと、更に、それらの女性が、トレーニングで習得し家庭で実践する保健衛生・栄養の知識並びに技能を周辺の親戚や隣人に伝えていく効果を図ることが期待されている。このトレーニング・プログラムは、約20−25名の出産適齢の女性が、3日間のコースに連日参加することを前提にした学習者参加型ワークショップの形態をとり、母子保健と家族計画、食品栄養と栄養不良問題、生活用水の家庭での取扱いと環境衛生、母乳育児と離乳食、食品衛生、身体計測、地域で一般にみられる疾病とその予防、身体の衛生、住居環境、性感染症(HIV/AIDSを含む)などを課題として取り扱った。

2002年度より準備を開始した伝統助産婦トレーニングは、2003年度も県保健局ならびに郡保健官やリーダーとの話し合いを重ねた。12月には、カリティニ区において地域のリーダー並びに当会の基礎保健トレーニング後に形成された保健グループのリーダーらと会議を持ち、同トレーニングの目的並びに概要についての合意を得た後、3−4カ村ごとの小規模な住民集会を開催し、地域で既に活動を行なっている伝統助産婦の発掘と、地域住民から支援されてのトレーニング形態の形成を図ったが、集会への住民の出席が少なかったため、伝統助産婦トレーニングに関連する住民の理解の促進をさらに図る必要があると判断し、選出方法などを再検討することとした。


6.スラム教育事業(ナイロビ市ムクル・スラム群)
前年度に引き続き2003年度も、ナイロビ市ムクル・スラム群に居住する高校生を対象に、高校の定期休暇中(4月・8月・12月)の補習授業を開講した。この補習授業では、教員資格、もしくは指導経験を有するケニア人を講師とし、多くの生徒が苦手とする理数科の講義をはじめ、一般教養の講義や社会科見学、理科研究発表会など興味を持って学習できる機会の提供を目指した。前年度に引き続き、参加者から一律低額の参加費を徴収し、当会の協力に対するスラム地域住民の依存心を最小限に押さえること、また、住民自身も事業に貢献しているという自立心を促すことを目指した。


7.コンサルティング業務
在ケニア日本大使館から草の根無償資金協力のコンサルティングとして資金供与が実施された案件に対するモニタリング業務を受託した。

前年度より5案件が継続となり、2003年度に1案件が完了した。さらに、新規に2案件を受託した。


8.国内活動
8−1.会報等の発行




8−2.イベントへの参加
下記のイベントに参加・出展し、理事、会員有志、ボランティアとスタッフによる活動紹介、パネル展示、ケニアのTシャツ・紅茶・その他民芸品等の販売等を行なった。




8−3.報告会・講演会の開催
報告会

講演会 外部講演等への講師派遣 総合学習


8−4.外部の会議・ネットワークへの参加
政策提言やネットワーキングを目的とする各種の会議・研究会・ネットワークに参加した




8−5.相談業務
NPO法人の設立と運営、開発協力事業の実施に関わる理論と実務、アフリカの社会経済事情などについて、他機関・団体の職員や一般の市民から相談を受けて応対した。昨年9月からの外務省の平成14年度NGO相談員委嘱は、3月で終了。通常の電話やEメールによる相談に加え、出張相談・講演なども行なった(担当:代表理事 永岡; 副担当:事務局長 國枝)。

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