1998年度活動報告
(1998年1月1日〜1998年12月31日)

≪構成≫
1.1998年度活動概要
2.教育支援事業
3.保健医療事業
4.環境保全事業
5.ルーベン奨学金

1.1998年度活動報告概要

本会は、1997年9月よりケニア共和国東部州ムインギ県、キツイ県、リフトバレー州カジアド県において、地域総合開発事業の実施可能性調査を行ない、事業地としてムインギ県ヌー郡を選択した。

1998年度は3名の日本人スタッフがケニアに滞在し、ムインギ県ヌー郡における地域総合開発事業をめざす活動を行なっている。

 

1998年度は、総合開発事業への足掛かりとして教育支援事業を最初にスタートさせた。具体的には教科書配布を通じて、地域の教育環境の改善を地域住民と共同作業で行なった。(外務省NGO事業補助金、立正佼成会一食平和基金、(財)国際開発救援財団による助成および一般からの寄付金)

また深刻に進行している環境問題を調査するため、東京事務所より専門家1名短期派遣行ない、ムインギ県ヌー郡における環境調査を約2ヵ月にわたって行なった。((財)国際緑化推進センターによる助成)

さらにヌー郡ムイ区において、住民グループが自主的に既存の診療所を拡張する努力が続けられており、今後CanDoとの共同事業として実施が可能かどうか、住民グループと話し合いを進めてきた。

 

有志によって始められた、ナイロビの都市スラムに住む低所得者を対象に高校進学のための奨学金事業は、CanDoナイロビ事務所で連絡・調整を行なってきた。今後CanDoの事業として運営していく予定であるが、1998年度の事業評価およびスラム生活に関する開発教材づくりを目的に、東京事務所より専門家1名中期派遣行なった。(3月までの継続事業。(財)東京都国際交流財団による助成)

 

1998年度は、地域住民自らが貧困化から脱却するための住民エンパワメントに依拠した、総合的かつ持続可能な開発事業に取り組むための重要な導入事業と位置づけられていたが、事業実施や各種の調査活動を通じて、地域との信頼関係が大きく進み、来年度以降総合開発へ向けて全面展開していく足場を固めることができた。

 

2.教育支援事業

ヌー教育区を含むヌー郡一帯は、半乾燥地帯に区分され、多くの家庭は農業と家畜の飼育で生計をたてている。昨年末から今年4月まで、エルニーニョ現象の影響による降雨が多すぎたため、現金収入源である農作物が成育せず、また重要な家畜であるヤギが病気によって大量死するなど、地域の家庭経済に大きな打撃を与えた。

ケニアの教育制度は、義務教育ではなく、小学校にかかる費用は教員の給与を除いて、すなわち学校で使用されるチョーク1本から教室建設にいたるまで、全額父母負担となる。現金収入が乏しい農村地域にとって、こうした学校教育にかかる費用は大きな負担となっている。

このように、学校そのものにかかる費用が高額なため、また個人でも子どもたちの制服やノート・鉛筆をそろえなければならないことから、保護者にとって多くの場合教科書まで購入する経済的余裕はない状況であった。とりわけケニアの教科書は大変高価なため、深刻な問題を引き起こしている。

こうした状況から、最近小学校では、教科書を共同購入して使用するという方法が定着しつつある。

しかし、多くの小学校では、教員が教壇で使用する教科書やガイドブックをそろえるのが精一杯であり、学校によってはクラスに教科書が1冊しかないということも珍しくない状態であった。

 

こうした教育環境は、毎年11月に行われるケニア国家統一試験(KCPE)の結果に反映されている。ケニア国家統一試験は、小学校8年生卒業時に受験するもので、700点を満点とし、高校に進学するために必要な最低点は350点となっている。高校に進学するしないは別としても、KCPEの結果は就職などにも大きく影響するので、将来を左右する重要な証明書となる。

1997年度のヌー郡の平均点は、292.19点であり、ムインギ県内8郡中最低であり、厳しい教育環境を現していると考えられる。

事業地として選んだヌー郡は、ムインギ県の中でも援助機関の数は少なく、また教育分野で活動する援助機関は少数の子どもに奨学金を給付している欧米系NGO以外活動していなかった。

こうした経緯から、CanDoの事業地をヌー郡とし、ニーズの高い教育分野での活動を足がかりにプロジェクトを進めることを決定した。

 

2−1.ヌー教育区教科書配布事業

(概要)

- ムインギ県ヌー郡ヌー教育区内にある小学校13校を対象に、基礎教科書、教員用ガイド、ワークブック合計4,500冊を配布。(立正佼成会一食平和基金、外務省NGO事業補助金)

- ヌー小学校に併設する知的障害者施設にも、基礎教科書および教員用ガイド合計78冊を配布。(エルムアカデミーからの寄付金)

- ヌー教育区は、生徒数約1,800人、教員数約70人であり、この事業によって推定される直接の受益者数は、約2,500人となる。さらに供与された教材は5年間にわたって使用されることから、波及効果を加えた受益者数は、約12,500人となる。

 

(説明)

ヌー教育区は、ヌー郡にある4つの教育区の一つであり、小学校は合計13校、生徒数は約1,800名、教員数は約70名である。

本年4月に日本人コーディネーターをケニアへ派遣し、地元政府および地域住民との話し合いを開始。

5月には地元政府、教育関係役人などを集めてリーダーズ会議を開催、6月にはヌー教育区内にある小学校13校を集めて全体会議を開催した。その他にも、可能な限り各小学校を訪問し、効果的な事業を実施するための話し合いを積み重ねていった。

8月4日に、ヌー教育区内にある小学校13校の内新設校を除いた8校を対象に、小学校7年生および8年生用ワークブック456冊を先行配布する。また9月7日から9日にかけて、同じくヌー教育区内のすべての小学校13校に対して、基礎教科書および教員用ガイド4,044冊を配布する。

11月には、配布した小学校の内8校を対象にモニタリング調査を実施。引き続き地元政府や学校・父母と話し合いを重ね、教科書の有効利用を進める。

 

2−2.カヴィンドゥ教育区教科書配布事業

(概要)

- ムインギ県ヌー郡カヴィンドゥ教育区内にある8年生まで在籍する小学校12校を対象に、ワークブック合計486冊を先行配布。(国際開発救援財団、外務省NGO事業補助金)

- カヴィンドゥ区は、生徒数約2,600人、教員数約90人であり、この事業によって推定される直接の受益者数は、3,500人となる。さらに供与された教材は5年間にわたって使用されることから、波及効果を加えた受益者数は、17,500人となる。

 

(説明)

本年4月に日本人コーディネーターをケニアへ派遣し、ヌー教育区での教科書配布と平行して、カヴィンドゥ教育区でも、地元政府および地域住民との話し合いを開始。

本事業は、ヌー郡カヴィンドゥ教育区内15校小学校、生徒約2,600人および教員約90人を対象に、基礎科目教科書、教員用教科書ガイドおよびその他の教材を供与するものである。

9月2日に、カヴィンドゥ教育区の教育担当官と地元政府役人との会議を開催。その後、9月15日にカヴィンドゥ教育区内にある小学校15校の校長、PTA代表等を集めた全体会議を開催した。合わせて可能な限り各小学校を訪問し、事業への理解と関係づくりを進めた。

9月15日の全体会議では、同時にカヴィンドゥ教育区内13校を対象に、小学校8年生用ワークブックを先行配布した。

10月に基礎教科書の配布を予定していたが、ケニア全土で行なわれた教員のストライキ、ケニア政府による教科書政策の変更、オランダ政府による教科書の一部支援などにより、スケジュールや配布教材を変更せざるを得なかった。

11月末に学校が休業に入ると同時に、来年1月への配布へ向けての準備に入る。

 

3.保健・医療事業

ヌー郡では、ヌー村にあるヌー・ヘルスセンターが、唯一医者を配置している医療施設であり、予防接種と子どもの定期検診を行なっている公的施設である。地理的な問題から、ヌー郡西部に位置するムイ区およびカリティニ区の住民が、ヌー・ヘルスセンターの直接の便宜を受けることはないと思われる。

ムイ区とカリティニ区には、それぞれ看護士を1名配置している診療所が1つずつあり、簡単な治療サービスを行なっている。予防接種は、ムイから車で1時間ほどの距離にあるキツイ県ムティトのカソリック教会が、定期的に移動診療の形で行なっている。ただし、このサービスについては、上部組織より資金難を理由に中止の指示が出ている、と聞いている。

 

ムイの地域住民は、ムイ診療所を予防接種や子どもの定期検診、緊急の出産ケースへの対応ができる施設にすることが、地域の最も優先すべき課題であると考えており、現在住民による診療所の拡張建設工事が行なわれている。

CanDoとしては、新ムイ診療所を拠点に、保健(プライマリ・ヘルスケア)活動の展開につなげていきたいと考えている。

現在までに、住民グループ自身で進めている拡張建設工事も最終段階を向かえ、ムインギ県保健局から新ムイ診療所へ看護士1名を追加配置することも約束された。またCanDoのアドバイスにより、住民グループは、拡張建設工事に必要な資材の一部と医療機材購入を盛り込んだ申請書を在ケニア日本大使館草の根無償資金へ申請した。CanDoは、今後住民グループが自主的にプロジェクトを実施していけるように、モニタリングおよびアドバイスを行なう予定である。

 


4.環境保全事業

ムインギ県を含む東部州では、沙漠化(=乾燥化・植生の単純化)が進んでいると言われている。

1998年度は、ムインギ県ヌー郡において環境調査を約2ヵ月にわたって実施し、今後の事業展開に必要な情報収集を行なった。

ヌー郡においても、あちらこちらで深刻な土地の荒廃がみられ、広範囲にわたって裸地になっている場所があった。これらは焼畑耕作、家畜の過放牧、人口の増加などが、原因になっていると思われる。

しかしながら、地域住民にとってこうした環境問題は、まだまだ身近な問題ではなく、行政府の働きかけにに対して、積極的には反応していないようである。

CanDoとしては、現実として深刻な問題となりつつある環境問題と、まだそれに気がついていない住民の意識を考えて、慎重に事業の形成を行なっていきたいと考えている。

 

5.ルーベン奨学金

ある日本のNGOが1997年末に打ち切ったケニアのスラム地域に住む高校生への奨学金は、その後ルーベン奨学金基金として、有志によって継続されてきた。現地では、CanDoナイロビ事務所が、その連絡・調整にあたっており、保護者や奨学生との綿密な連絡や話し合いを行なっている。

1998年11月から、東京事務所より専門家を1名ケニアへ中期派遣し、今年度の事業評価と来年度の合意形成、またスラムでの生活をまとめた開発教材づくりを行なっている。

 

以上